相良茉優さんのサイン会に参加した話

「俺は,どうしようもない敗北者だ」

なぜかといえば,いわゆる「はがし」が来るまで会話を続けられなかったからだ.

いやだってさ,あんなにお話しできる時間があるとは思わないじゃん?事前に用意した話題とか使い果たすじゃん?そもそも推しが目の前にいたらいつもより早口になるじゃん?

つまり,それは紛れもない神イベントだった,と言うことなのです.

 

2021年8月7日(土)ヴィレッジヴァンガード渋谷本店

渋谷駅の地下街の果てにあるこのヴィレヴァン,目の前を通ったことは数あれど,他の店舗よりアングラ感が強いこともあってか,入店したことはこれまでの人生ではなかった.

そんなヴィレヴァンがサイン会の会場であった.

今回のサイン会は相良茉優さんの1st写真集「夏初月」発売を記念したものであったが,正直に白状すると僕は写真集を予約すらしていなかった.言い訳をすると,コロナ禍で書店やアニメショップを巡る回数が減り,諸々のスケジュールに対する感度が低下していたことは否めない.だが,好きすぎるが故にあえて情報を遮断していたという悪い癖が出たのと,店舗ごとの特典やイベントの多さを前にそれぞれを精査することを避けているうちに発売日を通過してしまった,と言うのが最も正確であろう.つまり,僕はただただ怠惰だったわけだ.

しかし,仮にも推しを公言しているわけである.村上奈津実さんの写真集は発表後即注文をしているにも拘らず,まゆちの写真集から逃げているわけにはいかない.まゆちの写真集を買わなくてはいけない,いや違う,買いたいんだ.そうして自分のことを奮い立たせることに成功した.

しかし,幸か不幸か,まゆちの写真集は好評であった.そのため一部店舗では在庫が尽きたとも聞く.またしても機を逸した僕は,落ち着いたら買えばいいや,と先送りに先送りを重ねた.そう,結局は一旦忘れることにしたのである.何たる結末,即落ち2コマとはこのことだ.

ところがそんな怠惰な僕に,公式Twitterヴィレヴァンでの注文とサイン会応募がまだ可能だと言うではないか.まさに蜘蛛の糸ではないか.このサイン会応募という甘い言葉に背中を押される形で,ようやく僕は写真集の購入に踏み切ることができたのだった.購入日時は7月11日午後9時,なんと応募締め切り当日のことであった.

そして僕はまた写真集のことを忘れるのであるが,時は過ぎて7月末,店舗から写真集の発送連絡が届く.そう言えばサイン会の応募をしていたことを思い出した僕は,念の為メールボックスを検索する,

「写真集発売記念イベント当選のお知らせ」

見たことも聞いたこともない文字列がそこにあった.

なんと,当選連絡すら2週間放置していたのであった.イベントによっては当選無効になっててもおかしくないぞこれ.

いやその前に直前応募でもちゃんと当選させてくれるのかよ.ヴィレヴァンは神.

もう一度言う,ヴィレヴァンは神.

 

と言うのが今イベントに至るまでの紆余曲折であった.

 

さて当日,受付を済ませた僕は7番の整理番号を受け取った.言うまでもなく,僕の前には6人しかいない,たった6人の先達の様子しか見られないのだ.こんな状態で失礼なく臨むことができるのか?と集合時間まで45分以上もあるにも拘らず,心拍数は跳ね上がるばかりである.とにかく一旦心を落ち着かせようと,僕は久しぶりに訪れた渋谷の街を練り歩くことにした.

初めて渋谷に来たのは高校生の頃,今は懐かしのDROPSのライブでO-EASTを訪れた時であった.もはやその時のライブの内容は覚えていないが,2階席から見たサイリウムの綺麗さには感動を覚えたものである.そうした断片的な記憶を紡ごうとしても,ここは円山町.ラブホテルのサイン群がそうしたセンチメンタルな気持ちに浸ることを許してはくれないのであった.今から振り返ると高校生の自分はよくO-EASTまでたどり着けたな,無知は時として有益である.ところで円山町のラブホテルにも思い出はある.その時にお付き合いをしていた女性は,元カレとよく来ていたとのことで,入室とともにスマホが当該ホテルのwifiにシームレスで接続されていたのだ.そういう5chのコピペみたいなことは起こり得るのだから,やはり現実は小説よりも奇なり,なのである.あのホテルはまだ健在なのだろうか.別の気持ちが粟立つ前に,僕は踵を返すことにした.

閑話休題.内容はともかく外の空気を吸ってリフレッシュし,集合時間5分前にヴィレヴァン入り口まで戻ってきた.同じく参加者と思しき方々がそこで待機されていた.その数おおよそ50名.おそらくはかなりの倍率だったのであろう.この時間を楽しもうな,という気持ちで周囲を見渡す.みんなそれぞれ思い思い抱いているものはあっても,やはりどこか緊張した様子は窺われる.どうしてもソロ参戦になりがちなイベントですからね.受付番号の確認,検温,消毒,記入する名前の確認を済ませ,18時45分にはいよいよイベントブースが設置された会場へと入店.先述した通り受付番号7番と言うことで暫定的に最前列となった.狭い会場とはいえ,入場の様子からよく見えてしまうわけで,のっけからダメージが大きすぎると言えるだろう.

この日のサイン会は3会場で行われていたため,事前2会場の様子は予めTwitterで確認することができた.それによれば当日の衣装は写真集の表紙でもある,紺のワンピースのはずだ.当該ページをよく見て予習をするんだ,予習さえすれば大丈夫だ.

 

だめだった

 

ついに登場したまゆちは想定通り紺のワンピースであった.フラワーパターンのワンピース.あーね,知ってる知ってる.ちゃんとそのページは見ましたもんね.写真も然ることながら,やっぱり本人が着ているところを目にすると非常によく似合うよねー

 

本人が目の前にいるのだ

 

「可愛い!!」だとか「好き!!!」といった気持ちの前に,わずか1m程の距離に推しがいるのだ.その超現実的シチュエーションに「あ,相良茉優さんって実在するんだ」といった当たり前の感想が自分に去来した.その笑顔も,声も,よく知っているはずなのに,目の前から押し寄せる情報に,何がなんだかわからなくなってしまうのであった.

ともかく,そこにはまゆちがいて,サイン会はあっさりと幕を開けてしまったのである.なんと今回,まゆちは小ステージの上,我々はその下から会話するため,我々からの声が届きやすいよう,スタンドマイクが用意されていたのだ.わずか50名ほどの参加者とはいえ各々が練りに練った会話を会場全体に響かせるのは非常に恥ずかしい.とはいえ,まゆちに聞いてもらうためには大声で話す必要がある,八方塞がりだ.先達はというととにかく声を張っている,これに習うしかない,そんなことを考えていると無常にも僕の番となってしまったのだった.

 

まゆちの前に進む僕,僕の名前を呼んでくれるまゆち,「はじめまして!」なんとか絞り出した言葉...

 

僕はとにかく京都の話をした.写真集にも登場した嵐電五条坂は僕にとっても懐かしい風景であり,お互いが京都という地に思い入れを抱いている点がとにかく嬉しかったのだ.それが何よりも写真集を見た時の感情であり,そのことをまゆちに伝えられたことも言い表せないくらい嬉しかったのだ.そんな京都に関するやりとり,そして夢二カフェで着ていた衣装が好きだということを伝えた僕は,係員の誘導前にその場を離れることにした.それは確かに逃げだったかもしれない,だけれどもなんとか会話が繋がっている間にいい思い出として終わりたかったのだ.そんな僕に対しても,まゆちは最後まで,目を見て手を振って送り出してくれた.相良茉優は女神.

もう一度言う,相良茉優は女神

 

イベントから数時間は経つが,とにかく現実感がない.油断するとあれは夢だったのかもしれない,などと思ってしまう.先達アニキたちの堂々っぷりすごかったですね...もちろん,あれは夢などではなく,今も確かにサインをされた写真集は手元にある.こんなご時世だ,次会える機会はいつになるかわからない.推しには会える時に会うことが大事だし,何よりそこで大袈裟ながらも生きるパワーを分けてくれるからこそ尊い.是非とも次に会える機会があったなら,「今日の服装よくお似合いです」くらい伝えられる人間でありたいものである.

 

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先斗町にて