歌で綴る「推し」への気持ち

【2020観戦記】ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2nd Live! Brand New Story / Back to the TOKIMEKI 9/12/20,9/13/20

最初に言おう,これは中須かすみ / 相良茉優の物語である.

アイドルを語る上で「推し」という概念は欠かす事ができない.実は手元の三省堂国語辞典第七版にも「名 推し 『ゆみちゃんー 〔=支持〕』」とあり,用法としては市民権を有しているとも言える.さて,虹ヶ咲スクールアイドル同好会における僕の推しが中須かすみ / 相良茉優なのである.アイドルアニメ作品にはいわゆる「外(キャラクター)」と「中(キャスト)」という概念があり,「外」と「中」の推しが一致するかはその時によりけりであるが,この作品についてはキャラクターとしての中須かすみと,その中須かすみを演じるキャストとしての相良茉優を推しており,「外」と「中」の推しは一致している.

一番可愛いでしょ?だって最強! 努力してるんだもんね ダイアモンド / 中須かすみ

そこで起きるのは,キャラクターとキャストとの同一視であり,キャラクターを通してキャストを,キャストを通してキャラクターを見るという視点である.中須かすみは自分の可愛さに自信がある一方でさらなる可愛さへの努力を惜しまないという女の子であるが,相良茉優はそんな中須かすみに憧憬を抱き,少しでも近付きたいという気持ちで努力を惜しまない女性なのだ.実際,相良茉優本人も中須かすみとの相似点を問われたインタビューにおいて「努力家なところは似てる…と思いたいですね」と語っている.だからこそ彼女のステージは,もっと中須かすみに近付きたい,中須かすみの世界を表現したいという強い気持ちにあふれている.こうした相良茉優の弛まぬ努力が,僕が安心して彼女と中須かすみを応援できる理由であるとも言えるだろう.

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かすみんと目指そうよ 今からさらなる高みへと ☆ワンダーランド☆ / 中須かすみ

しかし,相良茉優中須かすみは似ていない部分もまた多い.中須かすみは「自分が」とひたすら前に出るタイプだが,相良茉優はどちらかと言えば周囲に目を向けるMCタイプであるし,可愛さの追求に余念のない中須かすみに対して,相良茉優はややインドアな趣味に造詣が深い.加えて言えば,中須かすみに対して相良茉優の地声はやや低めでもある.だからこそ憧憬の念が強く,少しでも近づこうという気持ちが強いのであろう.ステージや番組上で中須かすみを演じる相良茉優は,中須かすみが「降りて」くる.そこにいるのは中須かすみであり相良茉優,そんな安心感をいつも僕らは抱いていた.

君がいるだけでChance! 輝き始めたStory Sing & Smile!! / QU4RTZ

思うに,中須かすみとの出会いは僕だけでなく,相良茉優にとっても大きなインパクトを与えたことだろう.そうした自分の世界を広げてくれたキャラクターとの出会いが,彼女に責任を,そして自信を与えてくれたものと信じている.だからこそ,これまでステージ上ではキャストの中でも一際強心臓ぶりを見せてくれていたのだろう.周囲からもサバサバと称される相良茉優は,むしろ涙を流すキャストにそっと,あるいはズイッとティッシュを差し出すポジションに立っていた.

日が沈んで 帰らなくちゃ タイムリミット ギリギリ Beautiful Moonlight / QU4RTZ

しかし,このライブではそんな相良茉優が涙でぐしゃぐしゃになった.「かすみんに申し訳ない」と言って言葉をつまらせた彼女は,ステージ上で今まで見た事がない姿だった.彼女の気持ちは2日間の公演を見た身として痛いほどに突き刺さるものである.実際,彼女のパフォーマンスはこれまでと違い,ミスが目立つものであった.その理由が体調的なものなのか,あるいは精神的なものなのか,はたまた無観客ライブというイレギュラーな状態からの動揺なのかはわからないが,ただ一つ言えることは,「無敵級✳︎ビリーバー」での歌詞の失念が,各方面でこの曲が大好きだと公言していた彼女に強いダメージとプレッシャーとを与えてしまったのだろう.何せ公演初日昼公演の2曲目,ソロ曲としては全キャスト中1曲目での披露であり,しかも初披露でキャラクター総選挙に優勝した結果獲得した曲だ.元より重圧が強いことは想像に難くない.結果として,その後のユニット曲やソロ曲でも不安からか声が震えて聞こえ,「中須かすみ」らしさは失われていた.もちろん,その後に持ち直しは見られたのだが,初日夜公演のユニット曲,2日目のソロ曲とやはり本調子ではないパフォーマンスとなってしまったことは否めない.

聞いて! 泣き顔も笑い顔も 全部見て欲しい Margaret / 中須かすみ 

やや順番が前後するが,僕は初日昼公演の「Margaret」を聴きながら泣いてしまった.この曲はそれまでの中須かすみの曲よりも,より等身大の気持ちを歌っており,私は応援してくれるあなたのために頑張るから可愛いところも可愛くないところも全部見ていて欲しい,という思いが込められている.それを相良茉優が歌うのだ.その日パフォーマンスに不安が見られた相良茉優が.そしてまさにこの曲を歌いながら,彼女は次第に声に自信を取り戻していくのだ.なんだこれは,ストーリーとしてはあまりにも出来すぎているじゃないか!僕は推しにはもちろん笑っていて欲しい,でも例え推しが泣き顔を見せたって,完璧じゃなくたって,そんな事で離れたりはしない.そう言った姿も含めて一生懸命なところを見せてくれるから推しなのであり,どんな姿だって「推し」たいから推しなのだ.あまりにもキャラクターとキャストがリンクしてしまった「Margaret」は今公演のハイライトの一つであったとも言えるだろう.

前向いて I'm a Super Perfect Believer 無敵級✳︎ビリーバー / 中須かすみ

そして再び泣き崩れた相良茉優の話に戻るが,ボロボロになりながらも彼女はリベンジを誓い,これからの成長を見ていて欲しいと宣言したのだ.それは正に「Margaret」の歌詞に沿ったものであると言える.だからこそこれは,中須かすみ / 相良茉優の物語,なのである.僕らは知っている.彼女がこんな事で負けることはないと.シリーズを通し,絶望から立ち上がる姿は都度描かれ,そして実際に障害をなぎ倒していく姿を僕らは何度も見てきたのだ.だからこそ乗り越えられるに違いない.それに,彼女は「世界中の全員がNoだって言ったって 私は私を信じていたい」という,無敵級✳︎ビリーバーなのだから.そうした推しがいる事が,何よりも幸せな事なのである.